FROM SAITO CITY MIYAZAKI

西都市で新しいことをはじめるためのヒントが、ここで見つかる!

健康をとどける野草ライフPROJECT

野草とハーブの力で、身体の芯を癒やす時間を届ける。

野草研究家 山元さん

23 Fri. February, 2024 KEYWORD
  • 農業
  • 起業・小商い
山元 佳子さん

野草研究家 西都歴3年

都市部でITエンジニアとして勤めたのち、ゆかりの無い西都市へ移住し、いまや予約の絶えない野草カフェ「星草庵」を営む。夫婦二人三脚で健康を第一に考えられた野草メニューを考案。ちょっぴり勢いまかせなご主人と、理想の暮らしを探求している。

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23 Fri. February, 2024

 西都市の中心部から、車で南西に約20分の位置にある小さな集落・山田。路肩に慎ましく佇む「星草庵」と書かれた看板を頼りに小道を折れて進むと、暖簾のかかった立派な古民家が現れます。ここは、山元さん夫婦が営む「星草庵・ハニカムハーブ」。1日1組限定の野草を使ったランチ(2日前までの事前予約制)を提供する空間と、ご主人が施術を行うヒーリングサロンを併設。また、ハーブティーや野草茶の販売と、野草に関するワークショップも不定期で行っています。

自らの体調不良がきっかけに

 20年前。大阪で企画職からITエンジニアに転向した山元さんは、サーバー管理の仕事に従事していました。パソコンはもちろん、さまざまなデジタル機器に囲まれた職場はスキルの向上には最適だったものの、ほどなくして身体にビリビリとした感覚が。やがて慢性的な苛立ちや頭痛に苦しめられます。薬に頼らない、なにか良い方法はないか。試行錯誤の末に、光明となったのが自らブレンドしたハーブティーでした。こんなに良いのなら、とご主人が当時経営していたカフェや、知り合いのお店などから販売することにしました。

 10年ほど前に宮崎市に移住すると、高給で需要のあるITエンジニアという職の誘惑を絶ち、日本茶カフェで働き始めます。体の底から湧き上がってくる、野草への関心。それなら理想的な野草を採取できるよう、自分たちの畑を探そうか。ご主人とそう相談して動き始めた途端、驚きの急展開が待っていました。
 「ある民家を内見に行った夫が帰宅するなり『今すぐ買うぞ!あそこに決めた!』とものすごい勢いで言うんです。私は『とりあえず、まだ私が見てないから』と落ち着かせて(笑)。後日改めて伺うと、庭には金柑、日向夏、柚子、栗、柿などの果樹が自生していて、野草の宝庫。山を含めると450坪ほどの敷地がある。夫は果樹、私は野草に大興奮で、家の中も見ずに即決したんです」

暮らしから健やかになる場所

 2020年のオープンにあたって、二人が大切にしたのは「ゆっくりと過ごしてもらうこと」。組数を限定することは、一般的な市場論理から距離を置くという決意表明のように映りますが、経営者だったご主人とは意見が合わないこともあったとか。照れ笑いを浮かべつつ、ご主人が振り返ります。
 「すぐ数字のことを考えちゃうんですね。『宴会をやりたい人もいるんだから夜も営業して、俺がバーテンダーとして酒を出せばいいじゃないか』なんて言ったりしてたんですけど、彼女はもっと健康のための場所へとギアを入れたかった。その思いを受け止めて、僕は自分が介護福祉士で満身創痍のときに感銘を受けた “CS60”という器具を使った施術をすることにしたんです」

 「星草庵」のカフェで提供されるのはドクダミ、ヨモギ、スギナ、ビワの葉、柿の葉、ユキノシタ、ハゼランなど、優しいハーブ・野草やスパイスを使ったアジアンテイストな料理。すぐに手に入るような素材で、美味しい体験を届けたい。その体験を通して、野草の可能性に気づいてほしい──。野草を「この子たち」と呼びながら話す山元さんの、慈しみにも似た眼差しが印象的でした。「『雑草だから除草しないと』って言いますけど、『雑草』という名前の草なんてないんですよ」。

移住する側が心をひらくこと

 これまで縁のなかった西都市の、それも中心部から離れた古民家に夫婦揃って移住し、新しい事業をはじめること。そこには高いハードルがあるように思えますが、お二人がコミュニティに打ち解けることができたのは、なにかきっかけがあったのでしょうか。率直に伺うと「犬と、自治会ですかね」とご主人。なんでも、お隣の飼い犬を代わりに散歩し始めたことで顔を覚えてもらえるようになったのだそうです。「お忙しいときは僕がやりますよ、と言ったんですよね。犬が大好きで飼いたかったくらいなんで。すると道中で会うおばあちゃんが『あら、ゴンちゃん!』となって、ゴンちゃんを連れているおじさんは誰?となり、ご挨拶できる(笑)。本当にゴンちゃんのおかげなんですよ」

山元さんはさらに、移住する側の姿勢についても付け加えます。

「移住する側が警戒せず、ここが好きで来たんだ、としっかり伝えること。私も最初は構えてしまっていたところがありましたが、『野草が好きで、この場所が好きで』と言うようにしてから、みなさんの反応が変わった気がします。保守的になるのではなく、自分たちが喜んでいる姿を見せることで、周りも喜んでくれる。地域に溶け込みたいと思うとき、それが一番必要だと思います」

 現在の生活を、「まさに理想の暮らし」と軽やかに断言してくれた山元さん夫婦。自然のリズムに自分たちのペースを調和させる、その営みの結晶のような空間が広がっていました。