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世界を救えスーパーワームPROJECT

ITスタートアップ社長から、世界をめざす昆虫ベンチャー社長

昆虫ベンチャー社長 古賀勇太朗さん

2 Mon. October, 2023 KEYWORD
  • 起業・小商い
古賀勇太朗さん

昆虫ベンチャー社長 西都歴3年

タイでのIT会社の起業などを経て、昆虫食に可能性を感じ西都市でスタートアップを起業。グローバルな視野で養殖に取り組んでいる。起業だけでなく、YouTubeでの活動、自給自足生活への挑戦など、日々さまざまな試行錯誤を行っている。

  • 起業・小商い
2 Mon. October, 2023

 「これまでは、様々な会社を経営してきました。今は、大学で専攻していた、大好きな生物学のビジネスをしています。やりたいことは、自分で切り拓くものだと思います」

 人口増加や温暖化によって、深刻な国際問題として懸念されている食糧不足。この問題の糸口として、近年注目を集めているのが昆虫食です。飼育の環境負荷が少なく、栄養価が豊富で、加工の汎用性が高いなどのメリットがあるとして、大手飲食メーカーも開発に乗り出しています。西都市を拠点とする昆虫食のスタートアップ「株式会社スーパーワーム」の代表・古賀さんも、こうした可能性に魅力を感じて起業したひとりです。

起業家なら努力次第でトップを狙える

 2018年。古賀さんが友人とDAO(分散型自律組織)のプラットフォームを扱うスタートアップを立ち上げたのは、「Web 3.0」などほとんど誰も聞いたことがないような頃でした。大学で生物学を専攻しながらも、ITやプログラミングの領域にも惹かれていった古賀さんにとって、アイデアの種を見つけ、サービスとして世に送りだすことが何よりも楽しい「遊び」だったといいます。在学時には暗号通貨で決済できるサービスを立ち上げ、売却まで経験。一体、古賀さんを駆り立てているものは何なのでしょうか。
 「世界一の企業を作りたい、という気持ちがずっとあります。イーロン・マスクを超えるぞって。大学に入った頃は『研究者になるからにはノーベル賞を』と思っていたんですけど、ノーベル賞を獲るにはどうやら不確実性が多いというか、運の要素も大きいということに気がついて。それだったら、起業するほうが努力次第で世界一を狙えるんじゃないかなと」

タイでの起業から世界一周へ

 しかし、その後DAOや暗号通貨に対する国内の規制が厳格化。スタートアップという立場ではできることに限りがあるとみた古賀さんは、一度会社を畳み、タイを拠点にゲーム配信アプリの開発へと乗り出します。しかし、今度はほどなくして発生したコロナウイルスによってサービスの仮説検証が困難となり、帰国を余儀なくされました。
 「ひとまず西都市の実家に帰って、自給自足ができないかな、と考えていました。余っていた空き家があったので、そこで農業をやったり、ニワトリを飼ったり、ポンプで排水用の水を汲めないか、とか詳細に計画を立てて。でもそれだけだとつまらないので、市内の図書館で本を読んで得た知識をYouTubeを通じて発信したり、投資もしていたんですね。本業ニート、副業YouTuberというか。すると、次第にお金が貯まってきて、自給自足とかじゃなくなってしまった。このお金をどうしようか考えたとき、自由の効く20代のうちに世界をこの目で見ておきたい、と思ったんです」

世界を救う「スーパー」な虫

 一人で旅した数ヶ月。バックパックを背負い、ときに危険な地域や経済的に貧しい国にも一人で足を踏み入れ、世界の現状が肌感覚で掴めてきた。やりたいことをやってきたからこそ、今度は自分の経験を活かして、世界の役に立つことはできないか。そう考えた古賀さんが着目したのが食料危機──なかでもたんぱく質の供給が需要に追いつかない「たんぱく質危機」でした。古賀さんは最も効率的でサステナブルなタンパク源とされる昆虫の可能性に賭け、生物学のバックグラウンドを活かしたスタートアップを立ち上げます。
 「ゴミムシダマシ科の幼虫の『スーパーワーム』は成長速度が速いんですよね。他の昆虫も考えましたが、既に注目されていると他社に特許を取られていたり、さまざまな既得権益があったりします。あまり取り上げられていない昆虫にしたほうが、第一人者になれるし戦略としてもいいなと。名前もスーパーだし、こいつはスーパーヒーローだと思いましたね」

 養殖したスーパーワームは乾燥、粉砕、搾油という工程を経て、残った粉末は魚の餌となります。また、抽出した脂肪分は「スーパーオイル」というバイオ燃料になり、糞も肥料に使うことができる。肥料の原料高騰が進むなか、安価で栄養豊富な昆虫由来のたんぱく質は、市場を一新するのではないか。そんな古賀さんの推測を裏付けるかのように、スーパーワームには現在大手企業からの相談や引き合いも増えているそうです。

 スタートアップなのであれば、他の都市で起業してもよかったのではないのでしょうか。あえてそう尋ねると「ぶっちゃけ、そうかもしれないです」と古賀さん。でも、このビジネスアイデアは、西都市に居たからこそ生まれたものでもある、と付け加えます。
 「こっちに住み始めてから、畜産を見る機会が増えたんですよね。起業家の多くは東京にいて、アイデアがIT領域に偏りがちです。僕は起業家としての視点を持ちながら、ここにいたことで『昆虫』という発想が生まれたんじゃないかなと。知らない人同士でも挨拶し合うあたたかい雰囲気があるのは昔から変わりません。それでいて変に干渉してくる人もいないし、移住者でも比較的自由に楽しく暮らせるまちだと思います」
 直近の目標は、養殖のノウハウを確立し、大量生産を可能にする体制を築くこと。「このまま西都市でできると思います。土地もたくさんありますし、1番いい環境なんじゃないかな」

 世界を救う、その時まで。古賀さんの終わりなき挑戦は、始まったばかりです。