FROM SAITO CITY MIYAZAKI

西都市で新しいことをはじめるためのヒントが、ここで見つかる!

大自然で苺づくりと子育て PROJECT

自然に逆らわず、謙虚に。苺を通じて、
少しずつやりたいことを実現する暮らし

苺農家 大野高幸さん

11 Wed. August, 2021 KEYWORD
  • 農業
  • あそび・趣味
大野 高幸

苺農家 西都歴8年

西都市は穂北を拠点に、夫婦で苺農園「大野屋」を営む苺農家。心がけているのは、できるかぎり自然にやさしい農法で育てること。お気に入りの「15(いちご)キャップ」は、自身でデザインしたそう。やさしい笑顔がチャームポイント。

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11 Wed. August, 2021
はじめる人へのメッセージ

西都市はまず人が良い。それが支えになってくれると思います。来てみて、自然を感じるだけでも得ることがあると思いますよ。

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 西都市の北に位置する穂北(ほきた)、山の麓から流れる清流のすぐとなり。川の音と蝉の声とともに風が吹き抜けるこの穏やかな農地が、苺農家「大野屋」の拠点です。「初めてここに来たときにビビッときて。この場所に惚れて移住を決めたんです」と照れ笑いするのは、代表の大野高幸さん。さまざまな仕事を経験したのち「土いじりと自然が好きな自分に合う」と農業をはじめたのが8年前。今や県外にも評判は広まり、市内屈指の農家となりました。

 梱包作業を行う作業場は、DJブースや自作キャップが飾られ、趣味に溢れた秘密基地のような空間。スピーカーから流れる音楽は職場の雰囲気づくりでもあり、苺に聴かせる意味もあるんだとか。苺づくりの秘訣を尋ねると、なによりもまず健康的な土壌と苗作りにあるといいます。

「とにかく土作りにはこだわっていて、毎年精密な土壌分析にかけてミネラルバランスを調整し、健全な土作りをしています。色んな専門家に頼りながら、毎日コツコツ手入れをしてやる。収穫どきにちょろっとやってもダメです。苺のうまみっていうのは、日々蓄積する愛情なんです」。

 一朝一夕にはいかない土作りに加えて、苗作りのハードルも決して低くはありません。というのも、苺はとてもデリケートな野菜。風で葉が揺れると気孔を閉じて成長が阻害されたり、暑さに弱くハウスの気温を常に調節する必要があります。そうして春先までていねいに世話をして、収穫できるのは1株につきわずか1、2粒。量より質を重視するのがウチのやりかたですけど、こんなに手間のかかる野菜はないですよ、と奥さんが教えてくれました。

 「そりゃ、苺農家が少ないわけですね(笑)。休みなんてあってないようなもんです。でもあの人はとにかく苺にはまっすぐで。やっぱりいい苺を作りたいという強い思いがないと続けられない仕事だと思います」。

苺や自然と向き合えば、
やりたいことが溢れてくる

 中学を卒業後、すぐに働きはじめた大野さんは、20歳でアパレル業に転職。買い付けの仕事をしながら居酒屋の経営にも乗り出しますが、過労で体調を崩し、足を洗うことに。実家のラーメン屋を手伝いながら継ごうかと悩んでいた頃、ふとひらめたのが農業でした。すぐに応募したマンゴー農家のアルバイトで、果物が生い茂るビニールハウスの雰囲気に感動したそうです。

 その後、農業試験場での出会いを機に苺を育てはじめるも、1年目は大失敗。プライベートでの出来事も重なって、苦しい日々が続きました。それでもやってこれたのは、出会った人たちの言うことを素直に聞いてきたおかげ、と大野さんは言います。

 「たとえばアルバイト先のオーナーに農業がしたいと伝えたら、『いいから、ハウスの施工会社に行ってこい』って言われたんです。そのときはなんで?と思いましたけど、のちにその技術がこのハウスの施工をやるときの役に立っていて。土に関しても、中嶋農法に精通する方に本質的な土作りを教えていただき、その教えを守りながら、今も密に連絡を取り合っています。苺やこの自然、そして周りの人たちに生かされているんだな、と日々感謝しています」

 そんな大野さんが最近取り組んでいるのが、苺のドライフルーツの販売です。一般的には春先に旨味が落ちてきたものを使用しますが、大野屋では2〜3月の味が安定した大玉の苺をぜいたくにカット。甘みと香りが良いのはもちろん、表面のグラデーションも美しく、ミネラル豊富で非常食にもなるという、メリットづくしの一品です。「苺や自然と向き合っているとやりたいことが溢れてくる」そうで、さらなる夢も教えてくれました。

 「すぐそこにあるきれいな川を見ながら自然を満喫できるキャンプ場を作りたいなって思ってるんです。それもただのキャンプ場じゃなくて、川の形状を利用した釣り堀とかラジコン場、スケートパークや苺を扱うカフェなんかも併設した、一大テーマパークです。苺のカフェは管理栄養士を目指している娘の発案。たとえば糖尿病の人でも食べられるようなものを作りたいって、本気でやりたいみたいなんです」

「ドラム缶風呂につかって、星をみる。
それだけでここにくる意味がわかるはず」

 自分自身の対話相手として、子どもたちの遊び場として、苺を育てる場所として。西都市はやりたいことを実現する理想の場所だと大野さんは言います。

 「大自然が最高なんです。子育てしていても思いますが、農業を始めて、自然と触れ合うことがいかに大切か、より実感しています。子どもたちは親が何もしなくても、勝手に自然で遊びはじめる。それが一番大切やと思うんです。夏場なんかは休憩がてら、となりの川に入って鮎を突いて、バーベキューにして焼いて食べたり。夜は家族みんなで星を見ながらドラム缶風呂もやりますよ。ここはものすごく星が綺麗で。こういうところは、都会では味わえない贅沢な瞬間やなって思います。僕みたいに幼少を街で過ごした人は、ここに来るだけで移住する意味が分かるはずです」

 いっぽうで、大野さんには集落の高齢化という心配事もあります。ハウスまでの道のりを「お前に作る」とコンクリートで整えてくれたり、何かトラブルがあるとすぐに駆けつけてくれる集落の人たち。穂北にもっと人が集まってくれるような場所を作ることで、幾度も助けてくれた集落の人たちに、そしてこの地域に恩返しがしたいーー。さきほどの大野さんの夢は、個人的なプロジェクトであると同時に、穂北の今後を見据えたアクションという側面もあるのです。

 苺を懸命に育てながら、「好き」をゆっくり広げていく。「自然に逆らわず、謙虚に」。そう何度も繰り返した大野さんを通して、にぎやかな穂北の未来が透けて見えるようでした。