「西都に住むママ達が『西都で子育てをしていて良かった、ラッキー!』って、そう思えるような場所をつくりたいなって」。そう語るのは、西都市の中心市街地で子ども服メインの古着屋をオープンした福田さん。単なる古着屋としてではなく、西都市内の子育て中の母親たちが気軽に立ち寄れる場所にしたいとも語ります。幼少期から東京への強い憧れを持ち、高校卒業とともに強い意志を持って上京した福田さんがこのような考えに至ったのは、自身の子育てでの体験が大きかったと言います。
ママにとって“ラッキー”が見つかるお店を目指して
子育て中は悩みが尽きないもの。「0歳児の悩み、1歳児の悩み、2歳児、3歳児…と、子どもは大きくはなっていくけど、悩みもそのときどきで全然違ったりするから」。子どもが同じ年齢のママ同士で悩みが共有できたり、先輩ママからのアドバイスがもらえたり。自分自身がどこでママ友をつくればよいか悩んだからこそ、そういった場の必要性を感じていたと、3歳になる娘を膝に抱きながら優しい母の表情で福田さんは語ります。



子育てをする中で「もっとこうなったらいいのに」と思うことはそれだけではありませんでした。子育て中、思いのほか必要になるのが洋服。「西都は子ども服を売っている場所が少なくて、選択肢を増やしたいっていう想いもありましたね」。兄弟・姉妹が多い家庭にとっては金銭的な部分もネックに。家計を助けるという意味でも子ども古着屋は機能しています。「服の選択肢も増えて、しかも安く買えるなんてラッキーじゃないですか!そういうのを西都に増やしたいんですよね」。




“都会”への強い憧れと子育てで感じた孤独
そんな福田さんは幼少期を日向灘に面した川南町で過ごします。そのころから都会への強い憧れがあったと言います。叔父の家族が関東に住んでいて、従姉妹は生まれも育ちも関東。「いつもすごくおしゃれだったんです。都会の空気感やネオンのキラキラへの憧れもありましたが、正直言うとちょっと従姉妹への羨ましさがあったのかもしれません」。その想いを単なる“幼少期の憧れ”で終わらせないのが福田さんのすごいところ。高校卒業と同時に東京の企業へ就職を決めます。当時は「とにかく東京に行きたい!」という一心でしたが、上京を予定していた前日に東日本大震災が発生。両親や親せきからは不安の声もありましたが、福田さんの意志は折れません。10日遅れて上京し、憧れの東京での生活が始まりました。
東京では知人と共同で会社を2社経営するなど、刺激的な日々を送っていました。東京での生活が丸10年になろうかというときに福田さんは大きな転機を迎えます。妊娠していることがわかったのです。それまで、憧れの地で走り続けていた福田さんでしたが、これを機に経営していた会社を全て手放し、出産のために一時的に故郷宮崎へ帰る決断をします。

故郷で出産を終えた福田さんは娘を連れて東京に戻ります。しかし、あの頃憧れていた東京は、子育てをするにはかなり厳しい環境でした。「これまで、何も気にせずに乗っていた地下鉄も、子連れには難易度がとても高くて。そもそもベビーカーと一緒に電車に乗るのも周りに気を遣うし、エレベーターがない駅もある。あったとしても、ベビーカーがあると定員オーバーで乗れなくて見送らなくちゃいけないこともある。何分もエレベーターを待つなんてざらでした」。日々、子育てに対してフラストレーションも溜まり、頭では良くないと理解していながらも、つい子どもにきつくあたってしまうなど、住み慣れていたはずの東京で、初めて本当の孤独を感じたと福田さんは話します。
未来を生きる子どもたちのために
このままでは子育ては難しいと判断した福田さんは故郷へ戻ることを決めます。娘の成長を考えると、故郷に帰るという選択に関してまったく後悔はないと言います。「西都の子どもたちって、強制されていないのに自分から進んであいさつをしてくれるんですよ。それが“地域で子育てをしている”感じがして、うちの子もそういう風に育ってほしいなって思ってるんですよ」。

かつて東京に憧れていた想いとは裏腹にとある想いが福田さんに芽生えます。それは「自然豊かな場所で娘を育てたい」ということ。そして、福田さんが古着屋で実現したいことがもう一つあります。それは“モノとヒトが循環する場所”をつくること。「大きな話をすると、自然があるのは地球があるからなんですよね。娘たちが生きていく未来により良い環境を残すため、私たちができることって何だろうって考えたんです。例えば小さいころに大事に使ったおもちゃをうちに持ってきてもらって、それがお金に替わって、そのお金でまた新しいおもちゃを買ったり。そんな“物を大切にする心”を、お店を通じて養ってもらえたら嬉うれしいなって」。
最近その想いが少しずつ地域の子どもたちにも伝わっていると感じられる出来事がありました。「小学校の夏休みの課題で、SDGsについて自分たちで調べたり取り組んだりする課題があったそうで、小学生5~6人がうちの店を訪ねてきたんです。古着を使ってバッグを作ったりポーチ作ったりするみたいで。少しずつうちの取り組みも浸透しているんだなって」。西都市の母親たちのため、そしてこれからの未来を生きていく子どもたちのため、福田さんの挑戦はまだまだ始まったばかりです。






